松本十帖エントランス

「松本十帖」は長野県松本市の浅間温泉街にある宿泊施設とその周辺にある2つのカフェの総称となっている。
十帖、というのは10の物語という意味で、この場所から様々な物語が生まれていくことを願ってつけられたそう。

松本市の観光エリアからも遠すぎない距離だが、1日をゆっくり読書しつつ過ごしたく訪れた。
チェックインは「おやきとコーヒー」というカフェで行われ、周辺の案内とともに、おやきをいただく。

おやきとコーヒー
「おやきとコーヒー」にて

おやきは長野県発祥の食べ物であり、もともと冬季のお米の代用品が名物化したもの。
長野県の名物である野沢菜と、つぶあんから選べ、コーヒーと楽しむことができる。

チェックインの後は、宿泊場所である松本本箱に向かうもよし、近くのカフェやお店に向かうもよしである。

松本本箱は、箱根本箱の姉妹店であり、ブックホテルである。
夜通し本を選び・読み・購入することができる。
本を読むことに集中できる環境も用意されており、所々に座り込みながらだったり寝ながらだったりで読める半個室もあるため、客室に戻る必要もないほどである。

本箱の中には、こども向けの絵本が多く置かれていて奥にボールプールが置かれているこども本箱と、
洋書やデザインブックなどが置かれており改装された湯船の中で読書できるオトナ本箱があり、家族でもゆったりと本と出会うことができる場所になっている。

こども本箱
こども本箱(ブックプール)
オトナ本箱
オトナ本箱(ブックバス)
松本十帖客室
客室(デザイナーズ)

客室はシンプル・・・かと思いきや、読書に特化したシンプルさ、という感じである。
客室の半個室でも読書に集中でき、室内に時計もテレビも置かれていなかった。
文字通り「時を忘れて」楽しむことができる場所である。


この場所はブックディレクターの幅允孝さんが率いるBACH(http://www.bach-inc.com/)が選書や空間ディレクションに関わっており、本に出会って手に取る瞬間がデザインされている場所になっている。

実は自分は、この宿泊で読む本をもともと決めて向かっていた。
もちろん、本を選べる環境があることも知っていたが、ジュンク堂や丸善など、大型書店がついているイメージでいたのだ。
わざわざそこで本を選ばずとも、いま読みたい本を持っていって、集中して読もう、と。

しかし、中に入ってみると、1つの美術館のようであり、本だからこそ手に取りそれを味わうことができる新感覚の場所だった。
書店というのは網羅的で新しい本、流行っている本に出会うことができるだろうし、欲しい本が決まっていれば検索をしてAmazonで買うこともできる。
書店員の方の目線でフェア台が作られていて、そこで知らなかった面白い本を見つけることもあったり。

だが、ここでの出会いは何かが違った。

ふう、と一息ついた時に目について手に取ることや、そういえば気になっていた、と思ってしまう本が並んでいる。まさにこの宿泊に来た人が衝動的に手に取ってしまうような本を置いてくれている。

普段は本を読まない人ほど、一度宿泊し、この空間と瞬間を楽しんで欲しい。

松本本箱
本箱の中にはあらゆるところにくつろげる場所が用意されており、その場で気になった本を読むことができる。


私が衝動的に手に取ったのは『差し出し方の教室』である。
まさに差し出されたのである。

この場所に携わった幅允孝さんが著者となり、良い情報を伝えるだけでなく、
どう差し出すのかをテーマに、あらゆる業界の差し出し方の工夫やブックディレクターとしての差し出し方の磨き方を教えてくれる。

自分がこの本を差し出され、受け取ったのは、この本箱の本にそこまで期待をしていなかったからであり、
まさにこの場所で色々な本に出会ったために、差し出し方って工夫もあるのかあ、と思ったため。
実は読み進むうちに著者の幅允孝さんが本箱に携わっていることを知ったのだから、まさに運命的な差し出され方だったと言えるだろう。

差し出し方の教室
『差し出し方の教室』


この松本十帖には、哲学をメインに扱った「哲学と甘いもの」というカフェや、「小柳」という別の宿泊施設もある。
エリアとしても活性化しており
ぜひリフレッシュの機会に訪れてほしい場所だ。

松本十帖 created by 自遊人の公式サイト。長野県松本市浅間温泉の老舗旅館を「松本本箱」「HOTEL小柳」という2つのホテルに再生。周辺には空き家を活か…
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